メニュー

酸を抑える 有用性と弊害も考えながら…

[2023.02.12]

昨日今日は本当に春を感じる暖かさでしたね! 土曜日が祝日だと「損した気分…」と感じてしまう方も多いかも知れませんが、私の場合、土曜日は祝日でもなければ、まず休みにはならないので、昨日は本当にゆーっくりした気分で過ごせました。 不思議なもので、なぜか「ハッピーマンデー」でバイト先も休みだから月曜分が祝日で休みとなっても、土曜日が休みのほうが、身体を休めた気分になる。自分の体内リズムのせいなのか、不思議…。  おかげで今日日曜は朝からエンジン全開! というか、全開にせざるを得ないくらい、久しぶりに発熱電話が朝から鳴り止まず。 時間外枠も頑張って取ったけど、とても全員は診察できず。胃カメラや大腸の予約も入っていたし。 そうやって受けた患者さん、コロナよりもインフルエンザのほうが多かったです。しかも学童やその家族…といった感じ。やはりお子さんのなかで流行っているのかな? てっきりコロナ?と思って調べればインフルエンザ。或はその逆だったり…臨床症状からではコロナかインフルかの判別は無理ね…。

さて今回は「制酸剤」の服用について考えてみよう! というテーマで。私は消化器内科医だから処方件数も多い…けど絶えず気にしながら処方している…。「これでいいのかな…?」 そのこころうちを。   

ピロリ菌の除菌が普及するようになって以来、その成果も顕著で、最近では内視鏡検査時、活動期の潰瘍にお目にかかることは、私が研修医だった頃と比べてめっきり減ってきた印象。同時に「潰瘍」についての治療もどんどん進化を遂げてきた。治療薬はガスターをはじめとしたH2ブロッカーからオメプラゾンなどのPPI、更に強力な酸分泌抑制剤のPーCABと、新薬が次々登場。これら制酸剤は、以前は消化器内科医的には「抗潰瘍薬」の印象が強かったが、今は「逆流性食道炎」の治療薬として使用されることのほうが多い気がする。さらには高齢者の整形外科領域での鎮痛剤処方や循環器でのいわゆる「さらさら系」薬剤の副作用予防で、これら抗潰瘍薬処方は、もれなくセットで処方されてついてくる。潰瘍治療なら、教科書的に数週間治療でほぼほぼ治癒だから、限定的な日数処方でまだよい。問題なのは長期投薬になりがちな、副作用予防のための制酸剤処方や、逆流性食道炎への投薬。食道炎は慢性的に起きていることが多いから処方も長くなりがち。私は症状聞きながら長期にならないように、良くなれば休薬期間をおいたりしている。というのも…人間の身体は陸の環境に適応すべく、無駄なく進化してきた。指間の水掻きが退化したり、盲腸が短くなったり、ナトリウムが貯留しやすい身体になったり。胃液がPHの低い強力な酸のままありつづけているのは、それなりの理由があると私は信じて止まないから。さらに、世に出回る様々な薬も、胃に強力な酸が存在することを前提に創薬されているので、その前提が制酸剤服用で崩れれば、薬の吸収にも変化してしまうだろう… 奇しくも内科学会誌の新年初回号が「PPIの功罪」 というテーマでこういった疑問の参考になる記述もあったので紹介しながら、どう治療に向かうべきか考えてみたい。

その前に、ガスターをはじめとした「H2ブロッカー」は登場が1982 年。胃壁細胞に存在し、胃酸分泌を促進するヒスタミンH2受容体を競合的に拮抗するのが作用機序で、当時は手術や食事療法のための入院を強いられた胃潰瘍や十二指腸潰瘍が薬で治るとして、消化器科の歴史が変わるほど衝撃的だったよう。しかし、それから10年弱、1991年には、壁細胞の酸を分泌する受容体のブロッカーでさらに強力な制酸作用を持つPPIが誕生。その先2015年には、PーCABが販売。H2ブロッカーよりも効果が期待できるPPIの方が処方も多く、学会誌の内容もここに的が絞られていた。  知っておくべき内容としては、数週間の投与に関しては、他のどの薬剤にも見られるようなアナフィラキシーや血球減少、特に制酸剤だからという特別なものは認められないよう。問題は長期投与。5年以上の観察においても、エビデンスレベルの高いものは少なく、はっきりと断言はなきながらも「腸管感染症はおこしやすくなるかも」くらいの認識はあって良さそう。 このblogでも何度か登場した、食中毒の原因となるキャンピロバクター、ビブレオやサルモネラはそこまで強酸でなくてpH3くらいで死滅していたのが、酸が抑えられれば死滅せず、生き延びてしまう。実際こうした菌については制酸剤投与で腸管感染症が増えているという報告もあり、長期投与での腸管感染症のリスクは高くなるであろうとの見解は真のよう。あと、胃酸を抑制すると、カルシウムや鉄分の吸収、ある種のビタミンの吸収が低下するなど、ビタミン、ミネラルの吸収への懸念はあるものの、どれも机上の理論では成立すれど、実際の生体ではそこまで有意なデーターはなく、「可能性があるのレベルで理解して使用してください」的な論述でした…。   

逆流性食道炎は生活レベルを引き下げる代表的疾患の一つ。上記、制酸剤で劇的に症状改善した方には、ありがたい薬だろうけど、生体における、胃の「強酸」の意義も頭の片隅におきつつ、利用したいものですね。  上部消化管の話は次にも続きます。

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME