心不全パンデミック
昨日今日は、ふっと肩の力が抜けるような、つかの間の暖かさを感じる週末。先週に引き続き、陽射しにも益々の春の力強さを感じます。 最近は、物騒な殺人強盗事件の話題がトップに上っていますが、私個人は「多摩地域の有機フッ化化合物汚染水問題」が気になっています。そもそもこの辺は涌水や伏流水…水が綺麗だからこそ、ユーミンの歌にもある「サントリー武蔵野ブルワリー」もあるわけでしょ?府中市の市紹介も「水と緑の薫る歴史の町」ってあるくらい…それが「汚染水」? 実はかなり前からこの話は住民の中では知っている人もあり、私も患者さん情報で漠然とは知っていました。 ここまで表沙汰になったのだから、都も国も妙な忖度や隠し事はしないできちんと事実をはっきりさせてほしい。どこまで、何が安全なのか…変に隠すとかえって不安を煽られます。
さて今日は「心不全パンデミック」について。「パンデミック」。 コロナ渦にあって、最近良く耳にする単語ですよね。それが「心不全パンデミック」なんて、心不全と結び付くと、心不全がもとになって、何だか別の感染症でも起きるのかと誤解されそうなので、そもそも「パンデミック」とは? 「感染症が世界的な規模で流行すること」として、感染症の流行を意味する一方、感染症にとらわれず、「ある疾患が国や世界規模で広がる」ということにも使われます。そしてただ増加するだけではなく、その疾患の増加によって医療が逼迫して対応仕切れなくなることまでも合わせて意味しています。 「心不全で医療が逼迫するの?」 皆さんあんまりピンと来ないかも知れません。「癌」とか「心筋梗塞」と言われれば、何となく病気をイメージできても「心不全」って聞いてもいまいち、ピンと来ない方も多いでしょう。 心臓はポンプとして、体中血液を送る臓器。これが機能低下を起こして動きが悪くなってしまうのが心不全。ちょっと動いても息苦しくなったり、動悸がしたり。 昔は70代くらいが平均寿命で、体の臓器がいよいよ動きが悪くなる前に皆さんそこそこのところでお迎えがきていたわけだけど、今や人生100年時代。1970年代は65歳以上の人口は総人口の4.9%程度だったのが、2020年は29.1%、統計では2035年まで65歳以上の高齢者は増加一途をたどるそうで、現在120万人いるといわれている心不全患者さんももっと増えるだろうといわれています。様々な心疾患のなれの果てが「心不全」なわけだから、高齢者ほど罹患率は高く、今も高齢者の入院原因の第一位。癌の罹患者数が100万人だから、心不全患者さんも多いことがわかりますよね。一度発症すると、高齢者に心臓を移植したりもできないから、根治は望めず、入退院を繰り返しながら、生活の質が低下していってしまいます。患者さんにとっても悲しい予後であると同時に、医療を提供する側も、患者さんが増えることで、医療経済的にもマンパワー的にも圧迫され、まさに「コロナ感染」の時のような逼迫した医療現場のようになることが想定されるため、このような高齢化社会突入にともなう心不全患者さん増加を「心不全パンデミック」と呼ぶようになりました。
ただ、この「心不全パンデミック」の場合、コロナをはじめ、感染症のパンデミックのように予期せず突然起きるわけではなく、上記のように状況が変わらなければ、いつ頃どうなっているかのあらかたの予測が可能なことが大きな違い。「じゃその状況を変えればパンデミックが防げるわけね!」 ということで今、取り組まなければいけないことが「治療抵抗性の心不全に陥らないように発症予防」に他ならないわけです。心不全にはステージによって4段階に分かれますが、既に心不全となってしまい進行の一途をたどるステージになる前の、ステージA、Bつまりリスクはあっても発症前の人に現在から啓蒙していかなければならないわけです。
心不全は心筋梗塞や弁膜症、高血圧が原因にあります。心筋梗塞になれば心筋が虚血で動かなくなりポンプとしての心機能に不調を来たし、弁膜症は、心臓内部構造の弁が固くなったり、閉じにくくなれば潤滑な血流が維持できないから心臓に不調をきたす。また高血圧にいたっては、圧の高い血流が心臓に絶えず流れ込めば、そりゃ心臓に負担がかかるだろうと、発症機序の想像難くないですよね。弁膜症も心筋梗塞も動脈硬化がベースにあることを考えれば、これらの発症予防は高血圧とおなじく、日々の生活習慣がかかわってきます。喫煙、過度な飲酒や塩分とりすぎの注意も、 高血圧、脂質代謝、糖尿病の治療も、「言われているから薬飲んでる」って漠然と服薬している方もおられるかもしれないけど、それはほかならず、心不全予防して健康寿命を伸ばすためといえます。 また、心不全早期発見のために…「今までできたことが辛くなった」というのは「歳のせい」と思い込まないで医療機関受診してみて下さいね。前は平気で歩けた距離や坂が、息苦しくて歩けなくなった場合、心臓に問題があることもあるから。あとは、「むくみやすい」というのも心不全が隠れていることがあるので注意してください。
今回「心不全パンデミック」を話題にしたのは、府中市でも、超高齢化社会に備えて心不全発症予防に力を入れていく取り組みが行われることになったので、医療でホットになっているワードの一つ紹介しようと思ってとりあげてみました。 府中市では、心不全発症前の予備軍に相当する、高血圧、糖尿病などで医療機関へ通院している患者さんから、早期発見するべく、血液検査、提携医療機関への速やかな心臓エコー検査を行うなどのしくみを作成して、市内医療機関皆で協力し合って撲滅(ハードル高い?)にとりくんでいます。