各人の生き方の問題だけど…血圧
連休突入の日曜日。今年は皆さん、お出かけの予定もあるのかしら? クリニック、連休まるまる休むと、連休後のつけが怖くて…。連休中も東京残り組の皆さんと共に過ごすこととして、元気に開業致します… 何となく道も空いていて新緑の街路樹見ながらの自転車通勤も爽快です。
さて、今日は早速本題。日常臨床での悩み所をblogに。「血圧」絡みの話。 とある後期高齢者の男性。だいぶ前に奥さんに先立たれ、現在独居で暮らしている。日課の散歩を欠かさず、夜の晩酌が楽しみだとか。 わがクリニックへは検診やワクチン…何か身体に困ったことがあったらいらっしゃる…といった利用の方だった。 毎年の検診で、160越えの高血圧を指摘し、何度治療を促しても「自覚症状がないからいい」 の一点張り。脂質も高いし、動脈硬化はそこそこありそう。独居だし、ことがおきてからでは遅いと考え、昨年の検診時は策を講じ、やはり前から気になっていた弁膜症由来と思われる心雑音とだきあわせて、多摩総合医療センター循環器内科受診を促し、受診までこぎつけた。 しかし精密検査結果は「今手術するほどではないから、高血圧の厳格コントロールを」 とのことでこちらにUターン。 専門医にも強く指摘を受けたせいか、2ヶ月くらいは毎日血圧手帳もつけて通ってくれていた。 しかし、至適血圧には一筋縄ではいかず、薬の増量にも一苦労…というのも「自覚症状がないのだからこのへんでいい」挙げ句の果てには「どうせ一人でたいした楽しみもないからもういいんだ…」 教科書的な降圧の重要性や、独居で心配なんです…と、こちらが訴えてもほぼ、のれんに腕押し… とうとう、予約の日にもいらっしゃらなくなってしまった。 気にはしながらも、仕方ない…そんな気持ちで過ごしていた。 と、先週いきなり家族から「多摩総のICUに入った」と連絡があった。 入院先からの連携同士の連絡もないので、「結局、恐れていたことが起きてしまった」 と、心配しながらも、無念な心地で過ごしている。
さて、この血圧コントロール。この患者さんのみならず、老若男女問わず、至適血圧を目指すも今一歩だからと、薬の増量促しても「これくらいでいいから薬はふやさなくていい」 と拒まれてしまうケース結構ある。その多くの患者さんが「上の血圧が150以上にはならず、140台くらいなら、まっいいか…こんなもんでしょ」 こちらとしては、あと、もう一息なんだけど…の域。 おまけに、前述の患者さんのように「もう、生きていても楽しみないから、自覚症状なければ血圧なんて…」 はたまた、1日推定塩分摂取の多いことを指摘しても「薄味のまずいの食べながら長生きするより、おいしいもの食べていた方がいい」 こう言われちゃうと、個人個人の生き方の問題にも踏み込んでしまうから、中々うまいアドバイスもできなくなってしまう… 癌治療のような、見つけて治す医療とはまた違った側面を持つ、高血圧治療…街の小さなクリニックの悩みどこ…。
でも、今一度考えてみたい。以下にあげる事実を。 今や平均寿命は男性81歳、女性は87歳。90歳越えもざら。一方、自立した生活ができる「健康寿命」は男性は72歳、女性は75歳。この差の原因は「脳や心臓の血管疾患」。その大元の原因は他でもない、血圧コントロールなのだ。 さらに、長生きで昨今問題なのは血管障害よりさらに究極の、「各臓器をどう、保たせるか、さしあたり、ポンプとしての心臓の機能をしっかり…つまり心不全にならぬよう…」数ヶ月前のblogにもかいたけど。心不全で心臓が血を巡らすためのポンプとしての機能を保てなくなれば、身体中、血の巡りがわるくなり、送りだされない血液は肺に溜まり、息苦しい。となれば動けない。行き着く先はフレイル。心臓に長らく余計な負担をかけずに長持ちさせるには、血圧コントロールなのだ。 この根拠ともなるべく、疫学調査で、高血圧は、日本人の生命予後に寄与する弟2の因子となっている。(因みに1位は喫煙)。高血糖よりもというのが意外な気もするが、これは罹患者数が高血圧は多いことも関与しているからだろう。 そして、ちょっとした数値ではあるけれど、上の血圧を、日本総国民「3」低くすることで、脳血管の疾患死亡を年間10%減らせると、公表されている。 各人の価値観だけど、こういったデータ見ると「血圧コントロール」大事でしょう? でもねえ…推定では4300万人と言われている高血圧の方、治療までこぎつけてはいるものの、至適レベルの血圧まで達している方は25%くらいとのこと。さらには4300万人の33%は自分が高血圧であることの認知もないとのこと。 日本人の平均寿命の延長とともに、疫学調査や統計もどんどん更新されている。昔は脳卒中や心筋梗塞予防の至適血圧だったのが、今はむしろ心不全予防のため。これは130/80mmHg 未満となっているからね。 140以下ならよい…はすでに過去のものとなってます…