大腸内視鏡検査と大腸癌~検査医の印象に残った事例~
お彼岸3連休の日曜日の今日、いつもの自転車通勤中、あちこちで、頭上にスマホを向けて立ち止まってる人の姿を見かけました。その先には一様にポッと桜の開花…。やっと桜の季節が到来…。ここ東京でも「待ちに待った」感が例年より強い印象…私だけかしら? 寒い冬だったし、コロナでバタバタしていたから「やっと…」 という気持ちになるのかしら? でも先日の地震でも被害が出ているし、目を背けるわけには行かないウクライナ情勢… 「そんな浮足立っちゃいけないよ…」心のどこかからそんな声も聞こえて来るような…。
蔓防も解除になるこの時期、クリニックも発熱問い合わせもぽつりぽつりとなってきました。よかよか! でも我ら日本人は、桜と紅葉に心浮き立つ性分が、どうもDNAレベルで刷り込まれている感があり…せっかく若干減り傾向のコロナがまた、振り返さなければよいけれど。2年前の春や秋の事例に学ばなければ…ね。
さて、今週は上記表題、私の四半世紀の検査経験で印象的だったこと…、私がここに記すことでどこかで検査を迷う人の背中を一人でも押して、結果「やっといてよかったね」 となれば…。そんな期待をこめて。 そもそも大腸癌の発症部位別頻度は 直腸37.9%、S状結腸34.3%、上行結腸10.4%、横行結7.0%、盲腸5.9%、下行結腸4.5% つまり大腸癌と一言で言っても、肛門に近い部位の方が圧倒的に発生しやすい。こういう大腸癌の特性を踏まえれば、いかに、見てわかる血便などの症状が出ぬうちの、「便鮮血検査」が意味をなすかが理解できると思う。実際内視鏡検査やっていても、肛門からの挿入開始直後、あるいは、ちょちょいれた瞬間「これだ」と癌が発見されることが多い。 でも実際、私が印象にのこる症例は余りに多い肛門近傍よりも、全て10%の頻度と言われる上行結腸。「主人の他界後の諸々処理が大変で…ずっと私も亡くなった主人と同じような右わき腹の違和感症状があったんだけど忙しくて…」 ある男性「腹が張って変なのはもともと便秘のせいかと思ってたけど最近排便時血が出る」 ある女性「数ヶ月前、一時便が黒っぽいことあったけど、そのうちおさまったから…でも最近微熱が続いている」 これらみんな臨床症状が出てからの検査。結果は全て、上行結腸癌の進行例。検査後すぐ外科へ。症状が出てからの検査では、残念ながら内視鏡治療で大丈夫なことはほとんどない…。 あともう一つ、忘れ得ぬ、「便鮮血検査」絡みで大変印象的症例。 60代(だったと思う)女性。当時私が勤務していた検診センターの便鮮血検査で2回陽性。その施設は2次検査で大腸内視鏡もやっていたため、私がたまたま担当。結果、上行結腸に浸潤性で少し内腔も狭くなっている進行癌が…。しばらくして沈静剤から覚めたご本人に説明するところ、ご主人も同伴。「私も一緒に聞かせてほしい」 なんか一抹のものを感じる口調… ご本人も了承なので、二人を前に状況を説明した。ご本人の印象はあまり覚えてないが、瞬間ご主人が「何でこんなになるまで発見されないんだ! 高いドック代を払って毎年検査しているのに何故今まで指摘されなかったんだ!」 握りこぶしで椅子から立ち上がり、いきなりの展開に、私もびっくりし、側にいたナースが何とか制してくれた。(私の経歴見ると、どこで起きたことかわかってしまいそうだが…)十年以上たった今でも忘れられない出来事。便鮮血検査陽性の精密検査ということで、まさかそこまで騒ぎになるとは思わなかったので、慌ててご本人のデータ見ると、 その御婦人、確かに、常連様。毎年ドックを受けていて、昨年までの便鮮血検査は確かに2回とも陰性だった。そのドックセンターは、便鮮血検査以外にも、オプショナルで別料金の大腸内視鏡検査はやっていたが、残念なことに、彼女に施行歴はなかった。 貧血も昨年まではひっかかってなかったようだった。 その状況を踏まえたうえで「ドックの便鮮血検査も完全ではありませんから… 特に、このように大腸の奥の方にできた癌の場合、そこから少量出血していても、便に血液が練り込まれてしまうと、検体に含まれて来ないこともあるんです。この大きさの癌が肛門ちかくにできれば、当然下血して自覚症状があるから、もっと早くに発見されたかもしれないけど…」 説明できる限りを尽くし、即、本院の外科の先生に状況説明して受けていただいた。 このことを教訓に、もっと詳しい数字を言うと、便鮮血検査偽陰性は15%と言われています。 この御婦人のように特に大腸の奥の方にできたものが便鮮血検査には引っ掛かりにくい。 残念な偽陰性だったかも知れない症例のこの御婦人とは別に、たまたま2回のうち一回だけ陽性で「痔かもしれないけど、毎年陰性だったのに気持ち悪いからやっとこ」ってな具合で上行結腸に癌が見つかった方もこれまでの経験の中では結構見ています。だから私の印象では「大腸の奥の方にできてることも結構多いよ…」という感が否めません。これは欧米に多い傾向だけど、日本人も最近は…ということかも知れません。食生活の西欧化を言われて余りに時は流れていますからね…。
プライベートの引っ越しのいろいろな笑える事件も書きたかったけどやはり私は「大腸」となると熱くなる…。 この仕事、馬鹿見たいに自分に暗示をかけてライフワークにしているところがある。大事な友人、大腸疾患で、夢半ばで死んじゃったから。私は彼女の分も大腸に情熱傾けたいんだ…。 以上、クリニックで大腸内視鏡検査開始にむけて、2回に分けて検査に纏わる諸々書きつられてみました。 クリニックでいい案配に検査も始められています。